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「おいしさ」の錯覚 チャールズスペンス 要約、あらすじ

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はじめに

最近では世界のトップクラスのシェフ達はお客さんに美味しい食事を提供するだけでなく、トータルに食事を体験してもらうことで満足してもらいたいという欲求があり、食は基本的に脳の活動であることに気づいて客に提供する「体験」にいっそう注目するようになってきました。食べ物に対する人間の反応について舌や鼻だけで反応するのではなく、食事そのもの以外の要素の役割を理解し、脳と感覚の間の知覚心理学について研究し食の最新科学の成果を解説しています。

著者は食べ物を味わう時に生じる複数の感覚に作用する要素を研究し新しい食の科学(ガスドロフィジックス)に関心を示した。そして知覚科学の発達により食べたり飲んだりした時の知覚の仕組みが明らかになって知覚情報を脳がどう処理するのかを調べる学問(ニューロ・ガストロノミー)も登場した。

ミシュラン星付きのシェフ達の一部は「優れた料理はそれ自体が美味しい」のであり、産地直送、旬の食材、調理技術、見た目の美しさが優れた料理の基準であり、誠実な料理人は味で勝負するものだ、その他の要素は必要ないと主張し、ガストロフィジックスをただの感覚のトリックと主張しています。しかし同じ料理を病院で食べるのと、美しい庭園で食べるのとではどちらが美味しく食べられるかは誰もが想像できて、その他の要素の影響を避けることは絶対にできません。よって環境は味や食事をどれだけ楽しめるかを左右するのです。

味は甘味、酸味、塩味、苦味、旨味の5味だが多くの人はフルーティ、こってり、ハーブ、柑橘系、焦げっぽい、スモーキーなど表現するが、これらはフレーバーの分類です。味とフレーバーの違いは簡単で、鼻をつまんでも感じるのが味です。
昔は舌には味覚地図があり、甘味、酸味、苦味など感じる部分が舌のなかで別れていると考えられていたが、研究では味蕾のどれもが5味を感じる事ができるのです。このような誤解が長年気づかなかったのは誰も興味を示さなかったからです。しかし最近の有能な若手シェフたちが食事客の口の中だけでなく頭の中も考え始めたのです。

研究によるとあるフレーバーに初めて触れた時、その印象は、のちにまで影響することがわかりました。同じ食材、同じ調理法でで調理してもメニュー名が変わればお客さんの期待値は変わる。スーパーでも生産者が明確なら安心して商品を買うことができる。消費者の支払い意欲が高まるのです。

スペインの「ムガリッツ」ではお客さんがレストランにどう到着するかまで計算されています。スウェーデンの「フェヴィケン」スペインの「アルサリェーダカンロカ」も同じく。食べ物に対する反応は期待に常に影響されます。

苦い食べ物が好きな人は精神病質の傾向が強いとされています。最新の研究では苦いものを食べると敵意が増すことが分かっています。甘いものを食べると人はロマンチックになります。大金を手にした人は味覚が変化することが分かっています。

大脳皮質の領域の半分以上は視覚の処理に関与していて、味覚の領域は1%ほどしかありません。よって食べ物を口に入れなくても別の感覚を用いて味や栄養価を予想できるようになっていて、味の印象は味覚以外の感覚が想像以上に大きな役割を果たしていることが分かります。

香り

鼻をつまんで食べ物を食べると味気なく感じます。舌の味蕾はきちんと仕事をしているのに。それは鼻の知覚が思ったより影響しています。鼻先で感じる「オルソネーザル」と口の奥から鼻に流れ込む匂いを嗅ぎ取る「レトロネーザル」が働いているからです。

現在、発想豊かなシェフは料理やドリンクにアロマを授けるためにスモーキングガンを用いたりしている。

チョコレートのアイスクリームバーはチョコレートは凍らせると香りがしなくなるのでチョコレートの香りをパッケージの接着剤に添加して、パッケージを開けるとチョコレートの香りがするように細工をしています。その他にコーヒーのパッケージにアロマを注入してる企業もあります。

香りである程度満足させることで食べる量を減らすことができる研究が行われていて、満腹感があるのにそれほど量は食べていなく、結果ダイエット効果があるように将来なるかもしれません。

著者の祖父は食料品店を営んでいた時に、お客さんが入店してきたら、コーヒー豆を床にばら撒いて踏み潰してコーヒーの香りをたてて購買意欲を掻き立てていました。

私たちと食事の関係を考える上で鼻を理解することの大切さを忘れてはいけない。

見た目

空腹時に美味しそうな食べ物の写真を見ると脳内の血流が増えることは知られています。美味しい料理のことを考えただけでお腹がぐぅとなるのは誰でも経験していますし、食べ物が入ってきた時の準備として内臓の中で消化液の分泌もはじまる。現代ではソーシャルメディアやテレビなど食べ物のイメージで溢れていて味以上に見た目は重要です。

青色のステーキや緑のポテトフライは全く食欲はわきません。あるお菓子メーカーはチョコレートバーのかどを丸めただけで消費者から味が甘くなったとクレームがきたり、色や形で味を変えることもできる。ということは角を丸めることで砂糖の量を減らせたり、チョコレートを尖らせたら苦味を増したりできる。お皿の形や色を変えても味が変わることが分かっています。さらに提供された料理の向きもインスタグラムの写真の様に人々は無意識のうちに好むか好まないか瞬時に判断しています。

企業のコマーシャルでも食品に動きをつけると魅力的に見えることを利用しています。

ガストロフィジックスの研究者は食品の視覚効果の利用に警鐘をならしています。気を付けだ方がいい点は
1.食欲が刺激される
2.不健康な食生活を促進する
3.BMI値を高める
4.精神を疲弊させる

著者は不健康な程高カロリーな食べ物のイメージのいわば「デジタルな摂取」により私たちは自分でおもっている以上にたくさんのものを食べるようになり、長期的に不健康な食生活に誘導されていると警告しています。

食の体験の重要なのは見た目や香りなのは当然だが音は以外に気に止める人は少ない。しかし音は想像以上に重要です。

レストランに行って厨房から電子レンジの音がしたら戸惑いを感じる人は多いでしょう。コーヒーで豆を挽く音や蒸気の音は味を予想する大きな効果があります。自動車メーカーはドアを閉めるときの音やエンジンの音などドライバーが耳にするあらゆる音を改善する努力をしています。

食べ物の音は人間が好ましいと思う食感の多くは聴覚との関係が強いです。パリパリ、カリカリ、サクサクなど。
音には顎の骨を伝わって内耳に届くものと空気を伝わって耳に入るものがある。脳はこの2種類の音を口で生じた感覚と結びつけているのです。だから音を変えると口の中の食感も変わったと思うのです。私たちがシャキシャキ、サクサクをなぜ好むのかは新鮮さを見分けるヒントになるからで、この情報は先祖にとって重要なことでした。食べた時の音が大きければ大きいほどその食品が含む脂肪が多いと脳が考えるので音の静かな食べ物に比べて報酬が多いと判断し、そうした食品を好むのです。ポテトチップスはそれ自体の音も研究されているが、パッケージを開ける音も食欲を増すように研究されています。

昆虫食が研究されていてタンパク質、脂肪が豊富で外殻の固さも魅力なので研究者達はどの昆虫をどう調理すれば魅力的な昆虫食になるか試行錯誤していて将来、持続可能な未来が待っています。

BGMの影響は好きな音楽は甘さを引き立て、嫌いな音楽は苦さを際立たせる傾向があることが分かっています。今後「音響調味」というものが現れてくるかもしれません。

手触り、口当たり

現在、世界最高のミシュランのレストランのいくつかは指を使って食べるものが増えています。パンや貝などです。この流れはますます加速していきます。何故なら触覚は五感のうちで最も大きく、原始的であるので無視できないのです。

スプーンの重さも食品の味に影響します。重いスプーンで食べた時、軽いスプーンで同じものを食べた時よりもその味を高く評価する事実を突き止めました。

飲食料品パッケージも手触りを考えて制作している企業もあります。

雰囲気

雰囲気や環境が変われば同じ料理でも味は変わります。BGMに関してイギリスのスーパーマーケットでワイン売り場の音楽をフランス音楽にしたらフランスワインが売れて、ドイツらしい音楽を流せばドイツワインがよく売れました。購入した人は音楽に影響されたと自覚した人はいなかった。自宅でもイタリアっぽい音楽を流せばピザやパスタはより本格的に感じるでしょう。BGMにクラシックを流せば人々は散財する傾向があることが分かっています。音楽のテンポは勿論早ければ食事のスピードは早くなることは知られています。テンポの遅い音楽を聞きながら食事をしたらそうでない人に比べ多く支払ったという結果も出ています。レストラン側も客の流れをコントロールするのに混雑時にはBGMのテンポを変えているレストランもアメリカにはあります。バーの音楽の音量が22%大きくなれば客の飲む速さは26%上昇することがわかりました。それでもレストランは店のメニューにあったBGMを流せば人々の満足度は高くなります。
硬くて座り心地の悪い椅子は客が店に居座る客をなくす様に作られています。マクドナルドも十分以上座り続けると居心地が悪くなる様にして座席デザインをすることがルールになっています。

ソーシャルダイニング

一人で食事することは人々の肉体的な健康や精神状態に悪影響を及ぼします。家族と共に食事をする若年者では後に肥満になる確率が12%も低下します。同時に彼らが健康な食べ物を口にする確率は25%も上昇します。アメリカ人心理学者ハリーハーロウは1930年代に「優れた食事は友人と一緒に食べた時にさらにおいしく感じられる」と言っています。孤独な食事によって生じる問題は大きいです。

私たちは食べ物を分け与える相手に強い親近感を覚えます。最近の調査では共に食事をすることで人は他人の意見に同意しやすくなることも分かっています。
オックスフォード大学の心理学教授ロビンダンバーは誰かと一緒に食事をすることで脳内なエンドルフィン分泌が盛んになり、エンドルフィンは人々の社会的な繋がりにおいて重要な役割を担っていて、ともに食事の席に着けば社会的なネットワークが生まれそれが個人の肉体と精神の健康を高め幸福度と満足感が増し、さらには人生の目的意識が強くなりまると言っています。

機内食

機内食はずっとまずかったわけではありませんでした。昔は飛行機は高価だった為に裕福な人しか乗れずその人を満足させるために料理も素晴らしかったが、1952年にエコノミークラスの導入により乗客数が増えて機内食に力を入れなくなったのです。しかし元々、機内では美味しく感じる環境にないのです。機内の空気はだいたい高度1800メートルから2500メートルぐらいの大気と同じぐらいの圧力になるように調整されているのですが、そのような条件下では甘さや酸っぱさ、苦さを感じるのが難しくなります。だから機内食がおいしいと思えないのも不思議な話ではないのです。しかも機内の空気圧が下がると芳香分子が揮発しにくくなることもあり、私たちの味覚が上空で衰えるのはしょうがないことなのです。

機内食は機内食用に作られています。高所の乾燥した低い気圧の中では食べ物や飲み物の味あるいはフレーバーのおよそ30%が失われると言われています。そのことを知っている航空会社の多くは上空の空気に近づけた環境の中で機内食をテストしていて、航空会社は機内食のフレーバーを良くするために使用する砂糖と塩の量を増やすことが多いです。したがって現代の機内食は健康な料理だとは言い難いです。総合的に機内は美味しく食事をするには適した環境ではありません。

記憶

記憶はレストランやチェーン店に繰り返し足を運ぶかどうかを決める主な要素であります。

記憶に関して人は店で食事を楽しんだことは思い出すがどんなものを食べたかはほとんど覚えていません。素材と味の組み合わせなどはちゃんと覚えていません。人の記憶に残るのは芝居じみた演出や驚き、いつもと違うサービスが心に強く残ります。脳はまず食べ物の質をチェックして、期待通りの味か確認したら認知能力は別のより興味があるものに向けるのです。

企業は消費者の注意が食体験にあまり払われない中間部分では減らすことができるのではないかと考えて、例えば外側に向かうほどおいしいパンがあったとしてパンの外側に不健康だが味の良い成分を多く使い、一口齧るといい味がして、脳がその後も同じ味がするものだと錯覚して旨味を脳が補ってくれる研究がされています。この仕掛けの特許を取っている企業もあります。最新のガストロフィジックス研究は取りすぎると良くない成分、砂糖、塩、脂肪をなるべく少なくして尚且つ美味しい味を作れるように研究しています。

個人食

スターバックスでは注文すると個人個人にメッセージをカップの側面に書いてくれる。これは企業方針で個人化することで顧客の体験がよりよいものになると考えているからです。コカコーラも最近ボトルの側面に名前がプリントされた商品を発売していました。中身は同じ味なのにです。これによりコカコーラの売り上げは上昇しました。
オックスフォード大学の心理学者たちは、何でもないものが個人と結びついた途端に特別な意味を持つことを発見しました。自分に関連付けされた視覚刺激はすぐに優先されることがわかりました。

高級レストランでは顧客情報をデータベース化してお客さん一人一人をもてなすために前もって検索したりして満足させる努力をしています。しかし顧客の15%は調べられてまでサービスされるのは不快に感じるらしいが、レストラン側もそういう情報をアップデートして知らないフリもできるでしょう。とは言っても食事客に満足してもらう最高の方法はなんといっても個人化です。個人化であればあるほど食事を楽しむ可能性は高くなります。

メニューの選択肢が多すぎると人はストレスを感じる。食事客に選択肢を与えるなら「7」が魔法の数字です。7種の前菜、7種から10種の主菜、7種のデザートそれ以下だと少なすぎるリスクがあり、それ以上だと食事客は一つの料理になかなか決められなくなります。

人は自分で作ったものは他より価値が高いと考える傾向があります。手間隙かけたものは美味しくなる。マーケティングの専門家たちはこれを「イケア効果」と呼んでいます。だからいつもよりおいしく食事をしてもらうには人に料理を手伝ってもらうのがいいことになります。

食事客は料理に味を足す権利はあるかないか?著者は客人が料理に調味料を加えるのは料理を作った者への侮辱ではなく、むしろ私たちがそれぞれ異なった味覚世界に生きていることを証明する一つの形であると主張します。

新しい食体験の世界

レストランの役割は食事を提供するだけではなくなってきました。レストランの語源はレストレーション(回復)に由来します。今ではトップクラスのレストランではホールスタッフやシェフは役者を演じてストーリーがあり、食事という魔法が披露されます。一般のレストランでもテーブルで最後の演出があり、料理が完成するようなものが増えてきました。シェフたちは自分たちの作る料理がどれだけ素晴らしくても、その他の要素をコントロールしなければ食事客を満足させることはできないと気づいたのです。

ショーとして営業しているレストランもあります。あるアメリカのレストランでは食事をする人はあらかじめウェブサイトでチケットを買って劇場に行く様に食事に行くのです。観劇体験と食事体験の融合しているレストランもあります。近い将来トップシェフはアーティストとみなすことが一般的になるかもしれません。

デジタルダイニング

最先端の料理人は3Dフードプリンターなるものを使って誰も見たことない料理を作って食事客を驚かせています。最近バリスタがラテアートを作る補助をするインクジェットプリンターが発売されました。

日本の研究者はARヘッドセットで見ているものにあった食べ物の香りを提供する仕組みの開発に取り組んでいます。

舌に特定の電気刺激が加わると人は基本的な味を感じるという事実を研究者たちはすでに発見しています。

様々な食事用アプリも開発されています。例えばアイスクリームを冷凍庫から出していい具合に溶けるまでの時間を潰すためのアプリで、アイスを買った人がQRコードをスキャンするとミュージシャンがアイスの蓋の上に現れて演奏して、終わった頃が食べ頃になるというものです。

Googleの人工知能は写真からカロリーを計算できるようにトレーニングしています。

中国ではロボットが調理しているロボットレストランもあります。

未来派への帰還

将来、垂直農法や培養肉、昆虫食などが一般的になっているかもしれません。化学、技術が発展していくと私たちの食の知覚は口ではなく主に脳で行われているという事実に基づくアプローチが必要とされています。ガストロフィジックスが示す科学的アプローチは何が本当に重要なのかを見極めるのに役立ちます。

まとめ

おいしさに関するいろんな角度から科学的アプローチで詳しく解説しています。脳は想像以上に騙されて味覚を感じているのが分かります。食に関しては出尽くした感がありましたがガストロフィジックスのアプローチを用いれば食の世界はまだまだ進化すると期待できます。食の欲望は尽きることがないし、シェフも期待に応えようと創意工夫する。それらをガストロフィジックスが後押しする。食の未来が楽しみになるワクワクする本です。

著者 チャールズ・スペンス オックスフォード大学の心理学者 知覚研究者

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