広告

原発事故と甲状腺がん 菅谷昭 要約

この記事は約7分で読めます。

はじめに

著者は1991年から甲状腺外科の専門医としてチェルノブイリ原発事故による被災者への医療支援活動に携わりました。事故から5年後の放射能の被害の現状を看過できず1996年からウクライナの隣国ベラルーシ共和国での長期滞在を決意しその後5年半、甲状腺がんに関する医療サポート活動を行いました。

まさに原発事故による放射能の被害が如何なるものかを間近で実感した経験を持って、2001年帰国してから我が国の原発政策に関する提言を発してきました。

しかし2011年東日本大震災で福島第一原発事故が発生し、政府の危機管理の無策ぶりが露呈してしまいました。その後の対応も不手際が繰り返されています。もはや政府に任せては置けず、国民一人一人が放射能に関する正しい知識を得て正しい判断で行動していかなくてはなりません。

本書は著者が二度の原発事故に間近に取り組んできたことから知り得たこと、今後、第二、第三の悲劇を繰り返さないように取り組むべきことについてを述べています。

第一章 福島原発事故の被害は現在進行形である

福島第一原発事故から2年経って著者は原発事故が過ぎ去ったかのような国民全体の雰囲気に呆れています。一時「ワーッ」と騒いで「スーッ」と消える、日本人の悪いところです。

放射線量が下がったからといって安心になったのではなく、除染することによって一時は放射線量が下がったとしても放射性物質は再び降り注ぐことがあるのです。現在も放射性物質は放出され続けています。

放射性物質は消したり中和したり出来なくて、自然消滅を待つしかありません。その半減期はヨウ素131は8日、セシウム137は30年、ストロンチウム90は29年、プルトニウム239は2万4000年です。半分になるだけでもこれだけの日数を要します。なので放射性物質との戦いは一生終わらないのです。

放射線災害と自然災害の大きな違いは自然災害の場合は復旧、復興に向けて時間をかければ元に戻りますが、放射線災害は環境汚染によりその土地に立ち入ることができなくなり、たとえ軽度の汚染であっても放射線障害への不安は消えることはないのです。それに地域産業、経済、農業、林業、漁業などみんなだめになってしまうのです。

チェルノブイリの事故の後セシウム137の汚染レベルを四段階(居住禁止区域、厳戒管理区域、汚染地域)に分類する「チェルノブイリ基準」がグローバルスタンダードでつかわれています。しかし福島原発事故にはチェルノブイリ基準は採用されておらず、政府は福島原発事故で放出された放射性物質はチェルノブイリの一割程度だから問題無しと言っていましたが、チェルノブイリ基準を当てはめると住んではいけない地域に住んでいることが起こっているのです。著者は避難させる施策を国策として進める必要があると主張しています。

チェルノブイリの事故によって汚染されたベラルーシの国民は5年経っても貪欲に自分と家族を守るために真実を知ろうとしますが、日本人は事故からたった2年で安穏とした空気が漂っています。放射性物質は現在も毎日原発から大気中に出ていて、中部地方、九州、沖縄でも放射性物質が検出されたという報告があるのです。

汚染土の処理の仕方もベラルーシと日本では違います。ベラルーシは汚染土や瓦礫は全部30キロメートルゾーン内に運び処理します。つまり、汚染されたものを広めてはいけない考えです。一方日本はこれくらいなら大丈夫だからと、あちこちへ分散しています。それにベラルーシの人は戻って住むことは難しいことを理解していますが、日本は「除染すればまた戻れますよ」というようなことを言っています。

避難指示を解除するかどうかの基準は年間被曝線量20ミリシーベルトという値です。ICRP(国際放射線防護委員会)では一般人の年間許容被曝線量は外部と内部合わせて1メリシーベルト以下と決められています。よって国の言う20メリシーベルトでは大変リスクがあり、たとえ20ミリシーベルト以下になっても子供や妊婦は放射線安全医学の面からも影響は大きいです。

外部被曝とは被曝した線量と健康に及ぼす影響が比例するので大量の放射性物質を直接浴びない限り心配はないが、内部被曝は放射性物質を呼吸や食事から体内に取り込むことによって起こります。それが血中に入って体の中を巡って各器官に取り込まれ健康障害を引き起こします。

第二章 甲状腺がんとは何か

甲状腺は喉仏の下にあり、体の発育や基礎代謝、新陳代謝を促す作用を有するホルモンを分泌しています。生命を維持する上で不可欠なこの甲状腺ホルモンを合成する材料がヨウ素です。

ヨウ素は主に、わかめや昆布などの海藻類に多く含まれる栄養素でこれと似た性質を持つ放射性物質が放射性ヨウ素です。そのため放射性ヨウ素が体内に取り込まれると本来のヨウ素と区別がつかず、甲状腺内に沈着して放射線を発し、がんを発症します。内部被曝の場合、これくらいの線量なら大丈夫というものはなく、微量でも影響があります。

放射性ヨウ素は同じ線量でも、子供の方が被曝しやすいです。0歳の甲状腺は成人の21倍も被曝しやすいです。1歳児で15倍です。有効半減期は大人より子供のほうが短いです。よって子供のほうが甲状腺がんが発症しやすいです。放射線誘発性甲状腺がん発症は子供は急激に、大人はゆっくり増えます。放射能の汚染度が高い程甲状腺がんの発症率は高いです。

甲状腺がんが疑わしい人の多くに「しこり」が見つかっています。これを「結節」「嚢胞」といいます。結節は肉の塊で悪性ががん腫、良性を腺腫といいます。嚢胞は肉の塊ではなく、中に液体が溜まっています。これは癌とは関係ないしこりです。しかし、小さくてもしこりが見つかったら半年後には再検査を行ったほうがいいです。

チェルノブイリの事故の直後、ポーランド政府はすみやかに安定ヨウ素剤を市民に配布し、服用させたのでその後の甲状腺がんの発症を押さえ込みました。しかし福島は教訓を生かすことがなく、安定ヨウ素剤の配布、服用が遅れたためにその後甲状腺がんを発症する人をだしてしまいました。

ベラルーシの医療技術は低くて甲状腺がんの手術をしても首にネックレスなような創痕が残っています。著者はこの現状を見てから大学病院の勤務に終止符を打ち、患者に向き合う医師としての生き方を定めました。

ベラルーシでは若手医師に傷跡の目立たない手術法を教え、今では甲状腺切除手術はほとんど日本式で行われています。

第三章 被曝による様々な健康被害の実情

福島県が行っている検診で甲状腺関係の血液検査は行われていません。それと避難区域の住民を対象にした血液検査の結果が公表されていません。このように隠蔽体質を脱却しない限り、前へは進めません。

福島の汚染地域に住む人は毎日のように放射線を浴びています。その影響はすぐには現れませんが、数十年後に病的異常として現れてきたときは間違いなく社会問題になります。

厚生労働省は3年に一度の割合で「患者調査」を実施していますが、福島県全域た宮城県の一部を除外しています。まさに原発事故の現実から目を背けた行為なのです。

人体以外の放射線の被害は

稲の遺伝子に異常、捕獲した動物に成長異常、鳥には見たこともない出来物が確認、ニホンザルの白血球数が減少など。

ベラルーシでの被害は赤ちゃんの異常、子供たちの体力の著しい低下、エイズが激増など。

松本市は学校給食食材の放射性物質検査をしています。国の基準よりも厳しい値を目安に高精度の機械を導入して精密検査をしています。保育園も同様に対応しています。それに夏休みと冬休みに飯館村の小中学生を招き、信州松本子供キャンプを開催して、心のケアに取り組んでいます。

放射能による健康被害を抑えるにはその地域に住まないのが大事ですが、やむおえず住む場合はセルフケアを行うべきであり、それは、ニコチンやアルコールは放射線による健康被害を悪化させる報告があるのと、セシウム137などの放射性物質を体外に排出してくれる食材を摂ることです。注目されてるのは食物繊維とペクチンです。

第四章 二度と原発事故の悲劇を繰り返さないために

子供や妊婦は県外の汚染のない地域に避難して、体内からセシウムなどを排出させ、内部被曝の影響を軽くする。そのために効率の悪い除染に税金をかけるのではなく、移住に税金を使うようにする。40歳以上の住民は町を維持するために仕方がないが、汚染地域に住む。などを提言しています。

事故後原発は再稼働へと舵をとりました。それよりもむしろ代替エネルギーの開発に力を注いでもらいたいです。

日本はこれから産業、経済を優先するか、命を優先するかは議論しなくても命を優先して歩んでいくべきなのです。

まとめ

本書を読むことで著者が2つの原発事故に間近に携わったリアルな現状が途中インタビューを交えてひしひしと伝わってきます。長野県松本市長でもある著者が市をあげて原発活動を行っていることはほとんどの人は知らないです。原発事故は終わったのでなく現在進行形で終わることのない戦いなのだと、改めて気づかせてくれる良書です。

著者 菅谷 昭 医師 長野県松本市長

広告
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。
タイトルとURLをコピーしました